本を読む人だけが手にするもの

著者:藤原 和博
発行元:日本実業出版社
2016年9月発行

「本を読むメリットはなんですか?」
そう聞かれて、即答出来る人は少ないと思います。
この本ではその「本を読むメリット」について言語化されており、私達がどういった心持ちで読書をすべきかのヒントが散りばめられています。
読書のモチベーションが上がること間違い無しです。

著者は著書「100万人に1人の存在になる方法」や、「東京都で初の民間人校長」としても有名な藤原 和博さんです。
藤原さんの「時給100倍の謎」を議題としたセミナーは、私のキャリア観を大いに震わせる内容でした。

なんで本を読む必要があるの?

本書では「20世紀型の成長社会から、21世紀型の成熟型社会にシフトしたから」というのが挙げられています。
20世紀型の成長社会は1950半ば〜1997、日本の高度経済成長期には「良い大学を出て、大企業に就職さえすれば、会社が死ぬまで面倒を見てくれる時代」でした。
会社が自分の将来を担保してくれるため、「念願のマイホームを35年ローンで買う」という無茶な借金も許されました。

今はどうでしょうか。
2017年、三菱UFJは9500人、三井住友は4000人、みずほは1万9000人と、メガバンク各行は大規模なリストラ計画を発表しました。
2018年後半〜2019年前半の半年間の短い内に、コカコーラ・キリン・日本ハム・NEC・エーザイ・カシオ・アルペン・千趣会・光村印刷・富士通…といった東証一部上場の大企業が、 45歳以上の早期退職者を募りました。
2019年4月、経団連会長である中西宏明氏が「正直言って、経済界は終身雇用なんてもう守れないと思っているんです。」と打ち明けました。

https://newspicks.com/news/2628693/body/

ここ三年の間に、「会社が私達を守ってくれる」と考える能天気な日本人は大分数を減らしたんじゃないでしょうか。
ただやみくもに自宅と会社を往復していても安定した人生は約束されません。
これからは「特定の分野に頭抜けて特化した人間」と「1つの分野に絞られず、マルチに活躍出来るイノベーティブな人間」が生き残る時代です。
それこそが「21世紀型の成熟社会」なのです。
そういった時代に私達は生きていることを自覚した上で、「ではどんなスキルや考え方を持てば良いのだろう?」を思考を巡らす必要があります。

その答えとして、本書では「読書こそが人生を切り拓くための最良のツールである」と述べています。

読書を習慣づけて「希少な人材」となれ!

藤原さんの著書に「藤原和博の必ず食える1%の人になる方法」という本があります。
「稼げる人になるためには、100人に1人を目指せ」というのが主題です。
そして、下記の3つを心がけることで少なくとも「8人に1人の人材になれる」と明記しております。

  • パチンコをしない
  • 携帯ゲーム(ソシャゲ)をしない
  • 読書をする

パチンコは明らかに非生産的な行為であり、する人は時間をマネジメントする能力が決定的に欠如しています。まずパチンコをしないだけで2人に1人の人材になれます。
また、携帯ゲームも四六時中やっている方に関してはパチンコと同義であり、この2つをやらないだけで4人に1人の人材となれます。

これまでは最低限のレベルで、問題は「この2つに浪費しない時間を何に充てるか」ということです。
それが「読書をするか、しないか」という視点となります。

「21世紀型の成熟社会」では、教養が大事となります。
教養は、読書をすることなしに得られるものではないと本書では述べています。
2019年の文部科学省の調査によると、「一ヶ月に一冊も本を読まない日本人」が47.3%だということが分かっています。
今の時代には読書をすることが必須な項目であり、上2つに加えて読書をすることで8人に1人の希少な人材になることが出来ます。
この3つをクリアするだけで、上位10%の階層に入れるのであれば、やらない手はありませんね。

読書で身につく2つの力

本書では、読書をすることで自分のやりたいことを実現させる上で大切な2つの力が身につくと述べています。
それは「集中力」と「バランス」です。

才能豊かな人や有能なビジネスパーソンに数多く会ってきた著者の経験上、「集中力」は成功した人やユニークなことをやって注目を集めている人に例外なく身についている能力だと言います。
勉強やピアノ・サッカーの練習などでも身につきますが、本書では「読書こそが集中力を磨く有効な手段」として挙げられています。

もう一つの「バランス感覚」とは、「自分と地面(地球)、自分と家族、自分と他者など、世の中全体と自分との適切な距離感を保つことが出来る能力」のことです。
バランス感覚が欠如すると生活する上で様々な支障をきたし、特に対人関係に大きな影響を及ぼします。
ちょっと仲良くなるとベタベタする、逆に些細なことで絶縁状態になるなど、ゼロイチで判断する様になり、微妙な「間」や「距離感」という曖昧な関係を保つことができなくなります。
そうすると、何をするにしても極端な方向へ進みかねません。
読書は他人が体験したり調べたりした知見を獲得する行為です。
読書を通して自分の世界観を広げ、様々な視点から物事・他人を見ることが出来る様になり、人格的包容力や寛容の基礎ともなり得ます。

これからの時代に必要なのは「情報編集力」

成長社会では「ひとつの正解を導き出す情報処理力」が求められた一方で、21世紀の成熟型社会では「身につけた知識や技術を組み合わせて納得会を導き出す情報編集力」が重要となると著者は述べています。
情報編集力は下記の5つのスキルに細分化することが出来ます。

コミュニケーションする力 … 相手に対して自分のクレジットを高め、より質の高い情報を聞き出す能力のこと。人の話をよく聞くためのスキル。1つのジャンルに囚われず、先入観を排した乱読をすることで身につけられる。

ロジックする力 … 他者の納得解を理解する、もしくは自分の納得解を他者に理解してもらうためのスキル。成熟社会では様々な価値観を持った人々を共存しながら生きていかなければならない。自分の行動・思考に筋が通っているかを常に意識すること、また、物事を相手の論理で考えてみることで身につけられる。読書は「論理を理解しようと努める行為の連続」であるため、非常に有効な手段と言える。

シミュレーションする力 … 自分のアタマの中でモデルを作り、試行錯誤しながら確かめていくスキル。常に先を予測して行動することで身につけられる。読書から得られる知識は予測する上での判断材料として必須なものである。SFや推理小説などは予測することを常として楽しむものなので、このスキルを身につける上ではうってつけの題材となる。

ロールプレイングする力 … 他者の立場になり、考えや想いを想像するスキル。社会における他者の役割を効率的に学ぶことが出来る様になる。物事を他者の視点から見られると世界観が広がり、思考が柔軟になる。これらも読書を通し、事件や歴史上の登場人物の思考・気持ちを追体験することで身につけることが出来る。

プレゼンテーションする力 … 相手とアイデアを共有するためのスキル。多様な考え方が共存する成熟社会では、自分の考えを他人にも分かるように表現することは必須である。このスキルを身につけるには「他者」をイメージし、他者は自分とは別の世界観に生きていることを理解する必要がある。そのためには「どれだけ多くの他者の考えに触れてきたか」が重要となる。これらも読書による他者の考えの理解、経験の追体験を通すことで養われる。

情報編集力を高めるもう一つのスキル、「クリティカル・シンキング」

以上の5つのスキルに加え、「複眼思考 -クリティカル・シンキング-」(批判的思考力)も情報編集力を高める上で必須の考え方です。
要するに「自分のアタマで考えて、主体的な意見を持つ」という態度が必要となります。物事を多面的に考えることで、フェイクニュースや悪意のある他者からの情報に踊らされることも無くなります。そうして質の高い情報のみを仕分けてインプットすることで、自分の考えをブラッシュアップし、多様な考えを持つ他者との円滑なコミュニケーションに役立てることが出来るでしょう。

このスキルを身につけるには、「道徳としての読書」から抜け出す必要があります。多くの人が義務教育で体験したかと思いますが、国語の時間は道徳とさほど変わりません。特定の権威者が決めた課題図書を読み、「正しい読書感想文」を書くことを目標に据えていたかと思います。
他の先進国の国語の時間は日本と異なり、クリティカル・シンキングを鍛える傾向にあります。なぜなら、他国の国語は「ディベート」が主となるからです。クラスメートの納得解を通じ、「そういう考えもある」と受け止めながら、「自分だったらどう思うか?」を自問自答しながら読書を進めていきます。
多様な意見を戦わせることで脳のシナプスが活性化され、「他者の納得解の理解」「自分の納得解を他者に理解させる」スキルを身につけることが出来ます。

雑感

日本では1ヶ月に1冊も本を読まないという人が47.5%もいるという統計があります。
アメリカの大学では年間読書冊数が100冊を超えるところも珍しくありません。
日本で「大学は人生の夏休み」と揶揄されることが多い一方、アメリカでは「大学は最も戻りたくない地獄」と言われることが多いです。
実際、日本とアメリカのエリート層の知識量の差は、18歳までは日本優位、それ以降はアメリカのエリート層に大きく離されるという統計もあります。
グローバル市場主義が進む現在、個人個人が国内だけで市場価値を測る時代は過ぎ去りつつあります。
本作は読書が習慣付いている人の優位性がよく理解出来、こうした社会の中に必要なエッセンスが詰め込まれている良書だなぁと感じました。

未来の年表 ~人口減少日本でこれから起きること~

著者:河合雅司
発行元:講談社
2017年7月発行

 「来年の事を言えば鬼が笑う」という諺があります。
 予測外のことが沢山起きるのだから、将来のことなんて予測出来るわけがない という意味です。
 しかし、人口推移に基づく未来予測は比較的信憑性が高いです。
 年代ごとの出生数はほぼそのまま未来に推移するからです。
 世紀の大悪女 エリザベート・バートリ の様に特定の世代に狙いを定めて惨殺しまくったり、特定の世代だけが掛かる流行り病が蔓延しない限り、「ある年代だけ急激に減る、若しくは増える」なんてことはありえません。
 つまり、これから起こり得る課題の対策を立てる際には、人口の推移から予測される課題を見据えたほうが確実です。
 しかし、日本の少子高齢化問題は20年以上前から予測されてきたことなのに、依然有効な施策は見つかっておりません。人口問題とはそれほどまでに厄介な課題なのです。
 この本では、人口の減少によりこれから起こり得る課題と、これからどう対策すべきかを解説しています。

作者紹介

河合 雅司(かわい まさし)
 1963 年、名古屋市生まれ。専門は人口政策、社会保障政策。中央大学卒業。現在、内閣官 房有識者会議委員、厚労省検討会委員、農水省第三者委員会委員、日本医師会「赤ひげ大 賞」選考委員なども務める。拓殖大学客員教授などを歴任。2014 年には「ファイザー医学 記事賞」大賞を受賞。主な著書に『未来の年表 人口減少日本でこれから起きること』(講 談社現代新書)、『日本の少子化 百年の迷走』(新潮社新潮選書)、『地方消滅と東京老 化』(増田寛也元総務相との共著、ビジネス社)、『中国人国家ニッポンの誕生』(共 著、ビジネス社)、『医療百論』(共著、東京法規出版)などがある。 

これから日本はどうなるの?

 人口減少によって、日本にはこれから沢山の課題が突きつけられることは皆さんも何となく感じていると思います。
 ただ、具体的に なにが、いつ、どのように 起こるのかは把握出来ていない方が多いんじゃないでしょうか。
 人口の推移を見てみると、「何年にどんなことが起こる」という風に具体的なレベルで予測することが可能です。
 この本に掲載されている “人口減少カレンダー” を見てみましょう。

年代出来事
2019IT技術者が不足し始め、技術大国の地位揺らぐ
2020女性の2人に1人が50歳以上に
2021介護離職が大量発生
2022「ひとり暮らし社会」の本格化
2023企業の人件費がピークに。経営が圧迫
20243人に1人が65歳以上に。「超高齢者大国」へ
2025ついに東京都の人口も減少へ
2026認知症患者が700万人規模に
2027輸血用血液が不足
2030百貨店・銀行・老人ホームも地方から消える
2033全国の住宅の3戸に1戸が空き家に
2035「未婚大国」の誕生
2039深刻な火葬場不足
2040自治体の半数が消滅の危機
2042高齢者人口が約4,000万人とピークに
2045東京都民の3人に1人が高齢者に
2050世界的な食糧争奪戦に巻き込まれる
2065~外国人が無人の国土を占拠

未来に起こる出来事を時系列順に並べてくれています。
この中からいくつか気になった点をピックアップしてみます。

2019年
IT技術者が不足し始め、技術大国の地位揺らぐ

経済産業省の「IT人材の最新動向と将来推計に関する調査結果」(2016)を見ると、甘い期待は戒めなければならないと気付く。
やはり(AIの)実用化に時間がかかり、日本の労働力不足に間に合わないのではないかとの気持ちが強くなる。

『未来の年表 ~人口減少日本でこれから起きること~』

 ITの市場規模が拡大する一方で、国内のITエンジニアになる人の数は2019年をピークに減少に転じます。『2019年問題』とも呼ばれています。
 AIが労働力不足の解決策として期待が高まっていますが、現時点では実用的な技術は限定的です。これらの実用化は労働力不足に間に合わないのではないか、と著者は懸念しています。
 「国内でのITエンジニアの供給が需要に追いつかなくなる」ことを見越し、まだ日本より物価の安い ベトナムに進出している振興IT企業も多いです。
 しかし、ベトナムの様な新興国に進出するのは日本だけじゃありません。世界中が投資しています。日本が停滞する中、新興国はどんどん発展していきます。日本がオフショアする側でいられるのも時間の問題かもしれませんね。

2021年
介護離職が大量発生

 高齢者の増加がどの様に社会に影響を及ぼすか見てみましょう。まず、介護保険財政が圧迫・悪化します。そうすると介護保険条件の引き締め等、制度が見直されることになりますが、それにより多くの高齢者が介護難民と化し、自宅介護を強いられます。働きながらの介護(50代の身内が最も多いとされています)は負担が大きく、親を見捨てることなど出来る訳もないため、介護離職を選択する人も多いでしょう。
 介護離職が増加すると企業側にも大きな打撃となり、経済が悪化する要因となります。また、月々の介護費用は平均69,000円とされているため、多くの介護離職者が生活に困窮します。もし要介護者が施設入居もしくは死亡したころにより、介護生活から解放されたとしても、ブランクによって復職は難しいでしょう。結果、生活保護受給者も増加し国の財源の圧迫に繋がります。
 こうした事態を受け、安倍政権は「介護離職ゼロ」を掲げています。「介護職員の待遇改善」「施設整備の前倒し」「介護休業を取得しやすくするための制度改革」などに取り組んではいますが、財源の制約もあるため、あまり進められずにいるのが現状です。

2024年
3人に1人が65歳以上に。「超高齢者大国」へ

 団塊世代が全て75歳以上になる「2025年問題」とは、厳密に言えば2024年から始まります。
 この頃には、これまで問題視されなかった課題が一気に表面化し始めます。認知症患者の増加、社会保障費の膨張、地域の足の確保、高齢者向けの住宅の確保、都市部の医療期間や介護施設の不足など、挙げ始めたらキリがありません。
 老老介護で介護する側も要介護認定を受けている、といった家庭も増えてくるでしょう。また、一人っ子同士の結婚が珍しくなくなった現代、夫と妻の親が同時に要介護となる「ダブルケア」家庭も増加するかもしれません。
 こうした国レベル、家庭レベルの問題がこの年から顕在化することになります。

2027年
輸血用血液が不足する

 少子高齢化の抱える懸念に「医療の崩壊」が挙げられます。その要因は以下の3つが考えられます。

  • 医療保険財政の破綻
  • 医師不足
  • 輸血用血液の不足

 この中でも「輸血用血液の不足」はあまり話題になっていない分、さらに深刻な問題かもしれません。
 輸血用血液の用途は手術と治療です。ガン・心臓病・白血病などの病気治療が約8割を占めます。特にガン治療には大量の輸血が必要となり、この内約4割が使われています。
 しかし、高齢化により血液の需要が高まる中、少子化によって血液の供給は不足していってます。献血可能年齢は16~69歳、10~30代がメインの供給者です。そして、血液製剤は保管が難しく、コンスタントな供給が必要不可欠となるため、少子化が更に進む前にストックしておくことも出来ないのが現状です。

2045年
東京都民の3人に1人が高齢者に

 この頃になると地方はすっかり高齢化しており、若者も減っているため高齢者人口はもう増えません(若者が少ない分、「高齢化率」は高くなります)。これから高齢者対策に追われるのは地方ではなく、大都市になります。
 大都市の高齢化について考える時に外せないのは、医療・介護問題です。医療・介護のニーズは高齢化「率」よりも高齢者「数」に大きく影響されます。そのため、高齢者の絶対数が増加するであろう大都市部の高齢問題は非常に深刻なものとなります。
 しかし、地方の高齢化が進み、死亡者数が増えれば、地方”のみ”、高齢者施設が余ることになります。そうした場合、高齢者が増えすぎた都市部から地方への流入が見込め、地方再生につながるかもしれません。

2050年
世界的な食糧争奪戦に巻き込まれる

 労働力不足により、真っ先に農業就業人口は減少するでしょう。そうすると農業を主産業とする地域が大打撃を受け、関連する企業も売上を維持出来ず倒産し、地域人口の減少に繋がります。地域に人がいなくなれば公共施設の統廃合が巻き起こり、さらにその地域での生産者が減少する悪循環が形成されてしまいます。
 日本の食料自給率が減少すると、海外依存率が高まり、国際的な日本の発言力低下にも繋がります。
 「海外の食料自給は大丈夫なのか」という不安の声が挙がるかもしれませんが、最近フードテック業界に多くの投資が集まっている様なのでそれは問題無いのかな、と私は考えています。NewsPicksさんがめちゃくちゃ分かりやすい特集を挙げてくれています。インポッシブル・バーガー早く食べてみたいですね。

国の掲げる4つの施策

日本で一番解決すべき課題は「労働力不足の解消」です。
この課題に対し、現在政府が推し進めようとしている施策は「外国人労働者」「AI」「女性」「高齢者」の4つの選択肢に大別されます。

外国人労働者への依存は危険

 これからの生産人口の減少を全て外国人労働者で穴埋めするのは難しいです。
 多くの外国人労働者を受け入れることは以下のリスクを抱えることになります。

  • 治安の悪化
     多くの移民を受け入れたヨーロッパ諸国の様に、テロ、暴動、排斥運動により日本社会が分断する可能性があります。
  • 伝統、文化の変質
     地域の祭り、伝統行事を受け入れられなかったり、ゴミ出しルールを守らない、騒音等の地域のトラブルは既に問題となっています。外国人が多数派になった場合、日本側の変化によって解決せざるを得ない課題も出てくるかと思われます。
  • 外国人の老後コスト
     永住権の取得者が増えたら、「高齢になったら国に帰ってもらう」なんて都合の良い考えは出来ません。外国人に対しても高齢化の問題は付きまとうのです。
  • 職が奪われる
     原則、永住者はどんな仕事にも就けます。単純労働だけでなく、競争率の高い”割の良い仕事”にも就くことが出来るのです。企業は国籍よりも戦力になるかを重視します。スキルの無い日本人がさらに追い込まれる未来が容易に想像出来るかと思います。
  • 保証はどこにもない
     外国人労働者それぞれの母国でも少子高齢化や経済発展の波は押し寄せます。母国の状況によっては日本で労働するメリットを感じなくなる可能性も否定出来ません。むしろ、これから停滞若しくは後退していく日本では外国人労働者を招くことが出来なくなる日も近いかもしれません。

AIへの過度な期待

 労働力不足を補う方策としては、AIで注目されるICTやロボットの分野です。アメリカや中国の様に、日本でも無人コンビニ市場が拡大すればコンビニの人材不足問題は解決するでしょう。

 このような技術が発展することで、労働力不足はかなり解消することが出来ます。日本がこれから経済成長を遂げるには、AI技術の発達なくしては在り得ません。
 ただ、AIが人間の知識を超え、人々が「仕事を奪われる」ことを真剣に懸念するレベルに達する見通しは立っていません。これからは「AIでどこまでが補える範囲なのか」を見極め、人間とAIの役割分担を考えることが最優先事項となります。

未だ無くならない男女の労働格差

 問題は、企業に採用される数こそ男性と肩を並べるようになったものの、トップまで上り詰める女性がまだきわめて少ないことだ。業種や職種による違いはあるが、2010年、企業の管理職に占める女性の割合はおおよそ30%程度にとどまる。ましてや、企業の幹部レベル、取締役レベルの役職では、女性の割合が10%程度でしかない。15%を超えている企業はほとんどない。

『WORK SHIFT ~孤独と貧困から自由になる働き方の未来図<2025>~』 by. リンダ・グラットン

 世界的に、未だ労働に関しては男女の格差は埋められていないのが現状です。個人の資質の問題(男性ほど積極的に交渉しない、コネづくりに邁進しない)や、構造的な問題(法務・事務など、トップへ繋がりにくい専門職に就きやすい)、組織文化の問題、家族の在り方の問題(産休・育休によるブランク)など、複数の要素が起因していると考えられています。
 世界経済フォーラム(WEF)による男女格差の度合いを示す「グローバル・ジェンダー・ギャップ指数」 が 2018年版が12月18日に発表されました。調査対象となった149カ国の内、日本は110位です。上記ランキング2位であるノルウェーは「女性登用先進国」とも呼ばれ、「企業の取締役の40%以上を女性とすること」を法律に制定しています。この様に、 もっと柔軟な働き方を国が推し進めていくことで、就労可能な人はまだ増加する余地はあります。
 ただ、「人間とAI」と同じく、「男性と女性」もそれぞれに適した仕事があります。また、妊娠・出産によるブランクの様に、どうしても取り除けない課題もあります。となると、減少した男性労働力を女性で当て込むのは効果的とは言えないでしょう。

高齢者

 増え続ける高齢者の雇用を延長するため、定年の引き上げは政府の施策の必須事項と言えます。医療・遺伝子技術の発展により、高齢者の働ける健康寿命も確実に伸びるため、将来的には75歳まで定年が引き上げられると考えるのが妥当です。
 ただ、これから増加するのは75歳を超える「高齢化した高齢者」であって、企業が期待する「若き高齢者」はむしろ減ってしまいます。つまり、定年がもし75歳まで引き上がったとしても労働人口の不足は補えないかもしれないのです。
 定年を85歳まで延長すべきという意見もあります。実際に就労可能年齢を85歳まで引き上げた企業も存在します。

 産経ニュース
正社員としての就労可能年齢を85歳に延長
https://www.sankei.com/economy/news/180205/prl1802050158-n1.html

 これからはこうした時代に即した柔軟な改革を行う企業も増えてくるかと思われます。高齢になっても働ける・働いても良い社会が形成されるのは歓迎すべきことです。しかし、引退後の生活がままならず、「体がボロボロでも働かなければならない」状況に追い込まれる人も沢山出てくるでしょう。
 おむつを履いてひ孫と一緒に満員電車で通勤する未来が来るかもしれませんね。

日本を救う10の処方箋

 日本が「豊かな国」であり続けるために、著者は労働力の減少自体を解決するのではなく、この流れを受け入れた戦略を取り入れるべきだと主張しています。「労働者が減るのなら、労働者が少なくても回る社会を作ろう」ということです。
 この本では、「戦略的に縮む」「豊かさを維持する」「脱・東京一極集中」「少子化対策」の4つをキーワードとした、今から着手すべき10個の施策を紹介しています。

  1. 高齢者を削減
  2. 24時間社会からの脱却
  3. 非居住エリアを明確化
  4. 都道府県を飛び地合併
  5. 国際分業の徹底
  6. 匠の技を活用
  7. 国費学生制度で人材育成
  8. 中高年の地方移住推進
  9. セカンド市民制度を創設
  10. 第3子以降に1,000万円給付

 既に始まっているもの、話題に上がっているものもありますね。この中からいくつか気になった案をピックアップしたいと思います。


高齢者の削減

 先に挙げた定年の引き上げは必須事項です。10年前に比べ、身体の動き・知的能力が5~10歳は若くなっている、という統計もあるため、少なくとも75歳まで定年を延長しても左程問題は無いと推測出来ます。
 加えて、政府は年金額を抑え込むために、安い家賃で入れる高齢者向けの住宅を整備するべきです。人口減少による「空き家の増加」をうまく利用すれば、予算を抑えて整備をすることが可能です。


24時間社会からの脱却

 日本の便利さは先進国の中でも突出しています。
 中でもコンビニの様な24時間365日の稼働・ECサイトの当日宅配などは、労働者側の負担が大きく最近のニュースでもよく話題になっていますね。
 労働力人口が減る中、こうした「過剰サービスによる労働者の負担」を減らすため、24時間営業の取りやめや、再配達時間の縮小などで対応している企業も出てきています。
 そうした企業の取り組みに対して、消費者である私達がこの「不便さ」を受け入れる心持ちを保つ必要があります。

非居住エリアの明確化

 人口が激減している今の日本列島はいわゆる「スカスカ」な状態です。人々が思い思いの土地に住んでいる状態は、行政コスト的に大きな打撃となります。山中の数軒のために道路や水道などのインフラを整備し続けるのは馬鹿らしいでしょう。こうした過疎化した住居に対してインフラを用意しても、民間のサービスが行き渡るかは別問題であり、かえって「買い物難民」や「医療難民」を生む原因となってしまいます。
 居住エリアと非居住エリアを明確化することにより、人口密度を高め、行政コストの削減・ビジネスの活性化・都心への若者の流入や孤独死の様な社会課題の解決等、あらゆる面でのメリットを享受することが出来ます。
 また、著者はこういったコンパクトシティでは「自家用車が無くても用事を済ませられるか」がポイントとなる、と述べています。歩きたくなる町の形成は消費者意欲を促し消費が伸びる傾向にあります。歩くことよって健康状態も維持出来るため、医療費の削減効果も期待出来ます。加えて、近頃問題視されている「高齢者の運転免許の未返納問題」の解決にも繋がります。
 ここで最も重要なのは、住み慣れた土地を離れることになる住民達の協力です。政府が住民の負担を減らす施策を打つのは当然ですが、地域住民達も社会課題に意識を傾け、この移転がどれだけの恩恵をもたらすかを理解し協力する必要があります。

匠の技を活用

 高度経済成長期の日本は周辺諸国に技術力で圧倒的に勝っていて、若くて安い労働力が安定的に確保出来ていました。この頃は大量生産・大量販売の「発展途上国型ビジネスモデル」を展開し、国内外問わず大量の日本製品を供給していました。しかし、自動化技術の発達した現代では、こういった製品はどの国でも画一的に生産出来るため、みるみるコモディティ化していき、日本は賃金の安い国々と勝負せざるを得ない状況に陥ります。
 この「発展途上国型ビジネスモデル 」に固執し続ける限り、日本の停滞し続けるでしょう。例え労働力不足が解決したとしても、経済の成長なくしては人々の生活の豊かさは保証できません。そこで、労働力人口が減る中で経済を成長させていくために、「少量生産・少量販売」のビジネスモデルを選択する必要がある、と著者は述べています。イタリアでは、小さな村が独自のデザインと技術力を駆使した”こだわりの逸品”を生産し、世界的シェアを誇っている製品も数多くあります。これからの日本が目指すべきはこの「イタリアモデル」なのです。
 日本が「イタリアモデル」への転換に向いている理由は2つあります。1つは先に述べた労働力縮小問題、もう1つは全国の多くの職人技の存在です。日本の地方企業や伝統工芸には世界に通用する「匠の技」が数多く存在します。これらの「匠の技」と他業種の製品づくり、最先端技術を組み合わせることで日本独自のブランド製品を造ることが出来るでしょう。製造規模に固執せず、実力のある地方企業が優位に立ち回ることが出来るため、地方創生の足がかりになることも大いに期待できます。

第3子以降に1,000万円給付

 第1~9の処方箋は人口減少に伴う社会に対応するための方策でしたが、第10の処方箋では少子化対策について言及しています。
 日本では未婚で出産する女性が少ないため、第一子対策には「雇用の安定」「出会いの場の提供」等の結婚支援が効果的と言えます。また、第二子対策には長時間労働の是正が必要となります。厚生労働省の調査により、夫の休日の家事・育児時間と第二子の出生割合が相関していることが判明しているためです。
 ただ、この程度の対策では十分な成果を挙げられないところまで少子化は進んでいます。子供を持つことに大きなメリットを感じられる様な対策が必要となるでしょう。
 例えば、第二子が生まれた世帯には税額控除・児童手当の上積み給付などの優遇策を講じたり、第三子が生まれた世帯には1,000万円規模を給付する、などです。
 これらの優遇措置を設けるには、財源の確保方法について考えなければなりません。いつ実現するか分からない消費税増税にはあまり期待出来ないため、著者はこれに頼らない財源の確保方法を挙げています。まず、第一子に対する児童手当を廃止若しくは縮小します。加えて、社会保障に投じている予算の無駄を削減します。簡単に言うと、社会保障サービス適応時に支払われている多額の公費を”貸与”扱いとし、サービス受給者の死亡時に国に返還してもらう、という内容です。多くの高齢者は有事の時のために残した貯蓄を残したまま死亡します。遺産は身内に相続されますが、その貯蓄の一部は過剰に付与された公費です。それらの公費は国に返還してもらい、「死んだ人が自ら稼ぎ出した財産」のみを相続対象とすべきです。遺族に新たな負担が生じるわけでもないため、結果的には誰も損することはありません。

所感

 読めば読むほど日本が絶望的状況にあることを痛感する本でした。人口動態に基づいているため、一見トンデモ理論に見える予測も現実味を帯びています。
 第二部の「日本を救う10の処方箋」は特に熟読すべきだと私は感じました。ここで述べられている内容は国や企業が取るべき対策が主ではありますが、それらの変化の受け手は私達国民です。日本のこれからのために、現在の環境から脱却することを強いられる場面が来るかもしれません。そういった時、「今の自分」を尊重するか、「未来の日本」を見据えた行動を取るかで結果は大きく変わるでしょう。
 一人ひとりがこの社会課題に対する意識を高め、現状を把握しておく必要があります。